コラム2 インライン検査装置の活用方法(収益向上のために!)

 第2回目のコラムは、インライン検査装置の活用方法に関してです。特に、収益性を確保することを目的としています。

 私が古河電気工業株式会社(以後古河電工と記載)に入社したころは、今から40年近く前のですが、品質検査の装置は、投資回収が難しいという事で承認を得るのが難しかったという記憶があります。その後も同様の状況だと思います。顧客からの要求がある場合は例外ですが。

 これは、検査装置を導入しても不良の流出は防げても、不良率が改善されないと投資回収ができないという理屈です。一見正論のように思えます。しかし、これの考え方は必ずしも正しくないと私は考えています。以下に私が経験した実例を交えてご紹介します。

 私が、東京特殊電線株式会社(以後TOTOKUと記載)の再建のために取締役兼執行役員として古河電工を退職して移籍しました。研究開発部長、設備部長、原価低減部長と知財部長を兼務しました。10年赤字が続いて債務超過直前となってしまい、親会社と銀行の資本注入と、事業整理及び原価低減・原価改善を行うことで、V字回復が出来ました。2022年12月に、カーライル社に成長性を期待されて買収さました。買収前の営業利益率は15%を超えており、電線業界ではNO1となる会社に成長しました(回復後7-8年)。

 私は、工場の原価低減を担当しました。3件連続して原価を2%改善し、その後は事業部門の取締役兼執行役員に譲りました。そのタイミングで、新規事業創出に専念するために研究開発部と知財部の部長の兼務だけとなりました。

 前置きが長くなりましたが、TOTOKUの重要な事業の一つにフレキシブル・フラット・ケーブル(FFC)があり、低コスト化のために海外に進出していましたが、人件費の高騰で事業が苦しくなってきました。TOTOKUの社長からは赤字の事業は撤退する方針が出され、海外の社長から検査人員の削減をしたいので協力して欲しいと相談を受けました。機械で製造しているのに、検査員を付けて寸法検査や欠陥検査をしないと良い製品が作れないのはなぜだと海外の子会社の社長は憤慨していました。自動検査ができないのかと何年も言っていたようですが誰もやってくれないと嘆いていていました。研究開発部でこの開発を請け負う事にしました。研究開発部は新製品や新規の事業の新規製品を開発することがミッションでしたが、製造技術がないと強い製品ができないと私は考えており、既存の事業の品質と生産性の強化を図ることが新製品でも競争優位につながる考えて生産技術的な開発も少人数(1-1.5名)で行っていました。

 TOTOKUもようやく回復できたばかりで余裕がありませんので、開発費を成果報酬として回収することを条件としました。インラインの検査装置を開発するだけでなく、目的の検査人員の削減に加えて、不良率の半減、ロスの半減を子会社の社長、工場長に約束させ開発をスタートしました。

 同様の寸法検査の開発を既に行っていましたので、問題は欠陥検査装置の開発でした。重大不良9種に絞りこんでいただくことで達成できました。また担当者の頑張りのたまもので、ソフトのエンジニアが一人で欠陥検査のアルゴリズムの開発と電気のハードの選定、照明方法の開発を全て行いました(その後この担当者が、検査装置開発中心となり推進しています)。これらに関連して特許も3件出願しました。

 装置が開発して、海外工場に導入してから1年くらいたって、社長成果報告会の機会にその工場からのエントリーがあり私は驚かされました。約束した検査員の削減、不良率の削減、ロスの削減が全て達成され、効果金額が目標を超えて達成していたからです。

 私の計画では、不良率とロス率の改善は、私の部下の研究開発部隊派遣し支援しにいかないと達成できないと思っていました。しかし、多忙のため支援する余裕がなく、そのような支援をすることすら私は忘れていました。

 誰が改善したのですかと聞くと、現場の作業者が改善をした。朝市で毎日改善報告がありこのような状態になったと工場長が答えました。

 私は、これが理想の姿ではないかと思った次第です。この現象を私なりに解析しますと、

(1)作業者が行った調整作業がその場でよいか悪いかわかること。・・・・・作業の適格性の判断ができる

(2)寸法検査の場合、調整の結果がその場で数値で分かる。・・・・・数値的判断ができる

(3)欠陥・不良が出たらすぐにわかり対策が打てる。・・・・・不良の早期発見ができる

(4)調整方法や立上方法の改善を行った効果が、その場でわかる。 ・・・・・改善対策の良否の判定ができる。

これらは、インライン検査による『リアルタイム性』の効果だと思われます。また寸法検査の場合は、『数値での検査』、欠陥検査の場合は、『OK/NGの明確な判定』で、誰がやっても同じように正しく判断できることで、作業者が自ら作業改善ができるようになったことで、改善が進んだのだと思います。

 この結果から、インライン検査装置を導入しその情報を起点に改善を進めることが非常に効果的で効率的だと言えます。検査装置を検査のための装置だと考えるのではなく、改善を進めるための評価装置と考えることで、改善が正しく行われたのかをリアルタイムでかつ短時間で判定できることで、改善のPDCAが非常に素早く回る。このことが検査装置を導入することの真の効果だと思います。そのための条件は、『インライン検査』です。検査結果の数値化、OK/NG化です。誰がやっても正しく結果を判断できる検査装置であることでが必要です。

 TOTOKUは、この成果をきっかけに検査装置の導入を積極的に行う様になりました。このように改善が進められると、検査装置の回収も1年から1.5年程度ででき、再建後の資金的に厳しいTOTOKUでも投資が可能となりました。

 私は、現在この経験をクライアントに伝えています。あるクライアントでは検査装置開発を共同で行っています。製品によっては必要な検査装置が市販されていない場合や、市販されていても非常に高価でなかなか手が出ない場合があります。そのような場合は、私は独自の検査方法や検査装置の開発を提案しています。クライアントが自社でできない場合は、私と共同で開発をする場合もあります。私だけでは装置の開発はできませんので色々な方の支援を得て行っています。

 数量は多くはありませんが、装置開発に協力していただける企業がありましたら大変ありがたいです。 HPに求める技術を掲載いたしますのでご興味のある方はお問い合わせください。