第4回 設計・開発のマネージメントについて


コラム

 

第4回目のコラムは、設計・開発のマネージメントについて、私の個人的な意見を記載します。

 会社に勤めていたころは、複数の開発テーマを並行してこなしており、開発が完了しても報告書にまとめる時間が取れないことが良くありました。私が、入社して10年くらいまでは、私自身も組織の戦力となっていないこともあり、比較的時間的余裕があったので報告書をまとめることを上司から指示されていました。

 製造プロセスの開発が主な業務でしたので、装置設計は常駐の設計業者に依頼したり、装置メーカに仕様書を書いて依頼するという業務内容で、製品ができる装置の仕様を決める事、開発した装置を目的の機能が出るように仕上げるために多くの時間を割いていました。

 

 

  今の仕事を始めた当初は、依頼案件もほとんどなかったこともあり、昔の技術を設計資料としてまとめることができました。

 必要な情報をは全て自分で集めました。それぞれの分野の理論を理解し、設計に役立つ内容を整理して、設計資料を作りました。理論の理解は、この時初めて行ったものも多々あります。

 私が作成した設計資料の一例は、

(1)カーボン加熱炉の設計資料 

  カーボン加熱炉は、2,000℃を超える温度で加熱でき、しかもコンパクトな炉です、温度の制御性も比較的高いという特徴があります。 水漏れ対策や、必要な温度に加熱するための電力の予測が重要です。私がまとめた設計資料は以下の設計項目です。

 1)加熱炉の熱計算

 2)トランスの容量計算

 3)カーボンジータの抵抗値計算

 4)筐体の構造計算(板厚、溶接構造、スレイジャケットの板厚計算、など)

 5)冷却水量計算・水路の設計指針

 6)加熱炉の立上手順

実際に設計、装置を立ちあげた経験があるので、加熱炉設計に必要な内容はある程度理解していますので、理論だけでは分からない点に関してもコメントをつけて、設計の注意点としてまとめました。

(2)コーティングダイスの計算

 線材やテープ状の基材に溶剤で希釈された塗料を塗布し、乾燥・硬化させて皮膜を形成する方法は、色々な分野で応用されています。

 作成した資料は、

 1)皮膜厚さの予測計算方法 

  皮膜の厚さを理論的に予測することは現在でも難しいということ、専門家の講演で聞きました。

  私の設計資料は、実験データを活用した実用的な方法です。

 2)偏肉を低減できるダイスの設計の指針

 固定ダイスを使用する場合、偏肉を低減すには調心力を高める必要があることは経験的に分かっています。しかし、調心力のメカニズムは私自身、明確には理解していません。しかし、調心力を高めるための指標は掴んでおります。

 その他として、線状体の非接触テンション測定方法、熱風炉の熱伝達率の測定方法及び通過する線条体・フィルムの温度予測など。

 このような設計資料を作成していてふと思ったのは、図面は残してきたが、今作ったような設計資料は残してこなかったと気づきました。図面があるから同じ装置や近い機能の装置は作れるが、スケールアップや機能の大幅な向上の設計は難しいのではないかと思いました。 製造装置の場合は、すぐにスケールアップや機能アップすることはまずありませんが、20年、30年継続して使用することは良くあります。そのころになると、スケールアップや機能アップが必要になります。

 私が現在、技術顧問をしているベンチャー企業には、30年前の装置のスケールアップの相談があるそうです。昔は設計者がいたが今は設計できる人がいなくなっており、装置を依頼する会社を探しているという背景のようです。

 業種にもよりますが、装置産業的な業種では、製造装置の能力が生産性・品質・コストを決めます。非常に重要ですが、設計のエンジニアを抱えておく余裕がないケースや、新規設計にチャレンジする機会がなく設計レベルを高められないために先のような設計ができなくなっているケースがあると思います。

 モノ作りで生きている日本にとって重大な問題だと私は思います。このような状況を回避することは経営者や事業責任者の責務だと思います。私も反省するところが多く、他の業界ではどのような取り組みをしているのか調査をしました。自動車業界では、設計の履歴・変化点管理を行っています。これは、常に新たな設計開発の要求があるためだと思います。

 20年や30年先の装置対する要求にどのように対処するのか、これが今回取り上げた『設計・開発のマネージメント』となります。

 設計資料を管理することに加えて、設計の原理の資料とそれを使うツールを開発し、その技術を伝承している仕組みが必要です、これが『設計・開発のマネージメント』と私は考えています。

 装置産業では、設計の原理的な理解が必要だと私は考えています。30年後にどのような要求があるか予測は難しいためです。そして、新たに開発が必要な項目と、従来の技術の応用でできることを明確に切り分ける必要があります。そのために、装置設計に係る原理的な理解が必要です。

 加熱炉の場合を例にすると、放熱設計と構造設計と使い方の3つに分かれす。原理的理解が必要なのは、熱設計と構造設計です。熱設計の場合は、サイズが大きくなると輻射放熱の影響が大きくなるのでこの検証が必要になります。構造設計の場合は、計算方法自体は変わりませんが、水冷ジャケット部に板厚がかなり厚くなるので工夫が必要になります。また、冷却水の流れに関しても工夫が必要になります。

 以上指摘した内容は、設計図面だけを見ただけでは分からない内容です。

 そこで私は、図面に加えて設計の技術資料を作る必要があると考えています。また誰でも使えるようにするために、設計ツールを作ることを私は勧めています。この業務は、定年まじかの方で設計経験がある方、あるいは定年されたOBに依頼するのが良いと思います。情報の漏洩がないこと、また時間があるので既存の業務に影響が出ないと思います。技術資料を用いて社内勉強会をすることで技術の伝承と現役の方の技術教育に活用できます。技術教育を通じて、スキルアップや新たな設計へのチャレンジをする風土が出来上がります。このような社内の風土変化は経営的にも重要な要素であり、会社へのエンゲージメントを高めることや、労働意欲の向上にもつながり、離職者対策にもなると思います。また、定年まじかの方や定年して会社を離れた方の有効活用につながり、OBとの絆も強まると思います。

 

 会社の風土・文化を変えることが、継続的な収益や新規事業の創出につながると私は考えています。

 次回は、全社活動による収益の継続的改善と会社の風土の改善についてお話をしたいと思っています。